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Ankiを用いた復習=神! たとえば外国語の短文を覚えるとき

      2016/07/12


Anki――このSRSというシステムは化物か!

僕はもう長いことAnkiにお世話になりっぱなしだ。公開最初期のころから幾多のアップデートを経て、いままで様々な場面で使い続けてきた。

 Ankiとは何か? 答:SRS – Spaced Repetition System

復習の間隔をだんだん伸ばしていくことで学習効率を上げる、いわゆるスペースドリハーサルを実現するためのものだ。

内容的にやっていることはいわゆる単語カードのちょっと高度版という感じだ。

これは最初の復習は1日以内、できれば6時間から8時間後くらいに復習を行う(何もしなければ記憶は24時間以内に大半が失われる)。次の復習は三日後、次は一週間後、次は一ヶ月後というように、しだいに復習の期間を広げていくのである。

これは一種の分散学習で、一般的な知能を持った人(あるいはより低い知能の持主)は分散学習のほうが学習効果が高いことがよく知られている。

このような面倒なスケジュール管理を全て自動でやってくれるのがSRS、つまりAnkiだ。

しかし、個人的には集中学習のほうが効率がよい場合もあると思っているし、あるいは過剰学習による将来の記憶作業への適応能力の向上(いわば記憶のコツの習得)も意識しているので、分散学習のみで終わり、ということにはならない。

僕の場合はSRSを使用しながらも、集中学習も過剰学習も二つを同時に達成するために、いろいろと試行錯誤をしてきた。

ほかの人に合うかどうかはわからないが、これについてものちほど少し書いておくことにする。

ちなみに過剰学習についての論文は、たとえば次のようなものがある

逆転系列学習に及ぼす過剰学習の効果

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy1926/41/1/41_1_9/_pdf

幼児の逆転学習におよぼす過剰訓練と報酬量の影響

http://near.nara-edu.ac.jp/bitstream/10105/3437/1/NUE13_1_183-191.pdf

Anki vs SuperMemo

Ankiのアルゴリズムは基本的にはSM-2を採用している。このSMなんたらというのは、やはりSRSを中心とした学習・復習ソフトの先駆け的存在であるSuperMemoのアルゴリズムのバージョンを示すもので、数字が大きいほど新しく、記憶するにあたって効率的であるという。ちなみにSuperMemoのバージョンはSM-17だ(一部のバージョン以外は有料)。

SuperMemoの中の人も記憶というもの、あるいは記憶力、想起力についてにやたらとご執心で、SRSの効率を限界までクロックアップすることに熱い情熱を傾けている。

その人の恐ろしく詳しいサイトを見る限り、どうやら確かにバージョンの高いほうが記憶効率が高いようだが、実際に使ってみればわかるとおり、SuperMemoは全然ユーザーフレンドリーではない。つまりとても使いにくい。

僕はSuperMemoではあまりにもストレスがたまるので、こりゃだめだと思ったものだ。それで、多少の記憶保持の差を犠牲にしてでも、少なくとも気持ちよくつっかかりなく学習できるAnkiを選択したわけである。

SRSとしての機能はSuperMemoが優れている。スペックだけを考えるのならばSuperMemoを使うのがいいだろう。

SRSを基礎とした学習用アプリケーションとして、ストレスフルになりにくく、しかしカスタマイズ性もかなり高く、総合的にクオリティが高いのはAnkiである。

特にAnkiでは画像も音声も使用でき、あるいは自分の声を録音してそれを即座に聴くこともできる。少し導入作業が必要になるが、数式にも対応している。アドオンを入れれば画像を自在にマスクすることもできる。

外国語学習で重要になる音声についても、AnkiはText-to-Speach(音声読み上げエンジン、TTS)に対応していて、海外で販売されている非常に高度な、ハイクオリティの諸言語TTSを、Ankiで利用することができる。

惜しむらくは、Ankiはカードやデッキが増えてくるとかなり重くなる点だ。

Anki

http://ankisrs.net/

SuperMemo (サイトがリニューアルしていた)

http://www.super-memo.com/supermemo16.html

シンプルな一例、たとえば外国語の短文を覚える

では、Ankiを用いて学習を始めよう。

カードを追加していく過程を……と思ったが、こんなことはググればすぐに出てくることなので、初心者向けの解説はしないことにする。

実際に僕がどういうノートタイプで、どういうカードを作ってやっているのかを示すにとどめる。

さあ、これがメインとして使っているものだ。

Anki-01

質問画面。BOXに答えを入力する。答えはКогда у вас день рождения?

Anki-02

赤く表示されているところが間違えた部分(自分の名誉のために言うが、これは説明のためにわざと間違えたのだよ)。

見てわかるとおり、各単語の頭文字だけをあえてヒントとして表示している。

やり方は原始的な方法で、

Anki-03

このようになっているだけだ。ピリオドを自分で打っているという涙ぐましい努力の痕跡を見たまえ。

ただ、ずいぶんやってきたのでわかったことだが、このやり方にはまだ問題があって、日本語を見た瞬間にロシア語が出てくるようにするための訓練になりにくいということ。

頭文字の音声とリズムを頭が先に覚えてしまって、そこからロシア語の文章が再生されてしまい、意味を思い浮かべる間もなく、つまりそのような訓練をスキップしてしまいがちになるのだ。しかもそれはまだ自動化ではない

たとえばそれは、犬の鳴き声「ワンワン」を覚えて、意味もわからず真似て再生できることに似ている。

意味はできるだけ音声を聴いた瞬間や、ロシア語の文章を見た瞬間にイメージで思い浮かべるようにする。日本語を思い浮かべてもいいが、たぶん全体的にイメージするよりも多くの時間がかかると思う。

そういうわけで、復習期限が少なくとも十日を超えたあたりからこのヒントは消し、文章の頭一文字だけ(上の例ではКогдаのк…のみ)に内容を変更するのが今の僕のやり方だ。

継続的な学習ができるかぎりは、単語を高速で思い出して再生できるようになる→文章全体をひとまとめにまるごと再生できるようになる……というステップを踏むと、いきなり「この日本語をロシア語に訳せ」という問題をやるよりもストレスがたまらないし、実際に時間も節約できることがわかったからである。

Ankiにはここまで細かいことを全自動で実現するような機能はない。

なお、僕の全てのデッキのカードはTTSを使ってロシア語などを再生できる

Anki-04

カードのテンプレートはこのようになっている。

形式は穴埋めで、上は日本語文なので発音はさせず、TTSに関する記述は下の部分に挿入してある。

それぞれScanSoft Milena、Alyona、Olga、CLB+Aleksandr、IVONA 2のロシア語エンジンTatyanaという、五つのTTSを組み込んでいる。

このような高品位のTTSでも、やはり文章や単語によっては発音がおかしかったり、間違った発音をすることがあって、完璧とは言えない。

そこで複数使えば音が変化する部分を見つけられるし、それはおそらく当該言語の仕様上、母国語話者でも変化しうる可能性のある部分だろうから、そのような部分に注意を向ける訓練は有意義であろうと考えている。

 現代TTSの実際の音声の威力

実際に発音させた音声を聴いてみよう。

Milena

Alyona

Olga

CLB+Aleksandr

Tatyana

昔のアホまるだしのTTSとは雲泥の差であることがすぐにわかるだろう。現代のTTSは非常に進歩している。これが本当にくっそ便利だ。

CDからデータ落としてmp3作って……というのをやるのが面倒な人はTTSでも充分に効果がある。

ちなみにもちろんロシア語だけではなく英語もフランス語もドイツ語もイタリア語も、様々な言語のTTSがある。

僕が主に使っているのはロシア語と英語だけだが、かつてのゲイツマシンの低レベルなTTSのイメージを持って聴くと、感動的なほど美しい音声に進化している(ただしそれなりに値段が高いが)。

しかし、最終的には、やはり本物の外国人の発する抑揚やリズムにはかなわないので、CDなど母国語話者の音声があるならば、それを使うにこしたことはない。

もちろんAnkiはmp3も扱うことができる。

 

というわけで、このようなカードを使って文章や単語をしこしこ暗記しているわけだ。

Anki-05

と、むろん逆のパターンもある。これが一つのデッキのテンプレート内で完結しないのが惜しい(先に出したものをリバースして提示するということが、どうやってもできなかった。音声関係の問題もあるだろう)。

ちなみに、タイプで入力するボックスがあるが、使うのは意識的に記憶術などを使って記憶し思い出す最初のうちだけで、瞬時にわかるようになったらタイピングしているぶん時間の無駄になるので、無入力のままエンターキーで次へ行くことが多い。

外国語は思い出すのに2秒以上かかると詰む(当社比)

さて、瞬間的にとか瞬時に……などと何度も言ってきたが、僕はこれまでの経験から、言語というのはただ憶えているだけでは全然足りないことを痛感しているんだ。

つまり、このディスプレイの前で思い出せるというだけでは、実際の会話ではなかなか思い出せないのだ。

だから頭のなかでできるだけ現実に即した想像を作り上げて、こういう状況で使うのだ、という漠然とした意味・価値を、その文章に与えるようにしているのである。

おおむね実会話において、考えるために2秒以上の間が開くということが何度も何度も起こってしまうと、だいたいお互いにどちらも具合が悪くなってくる

短文、フレーズ、せめて2秒以内に思い出せるように訓練する必要があるだろう。しかしそれで発音がおろそかになってもいけない。

高速で思い出せるようになるために

まだ改善の余地が残されているかもしれないが、これはすでに僕が長いこと続けている方法で、時間はかかるが効果は確信している。

これは外国語のみならずどんな暗記科目にも通用する。

高速で思い出すためには、どうしても高速で思い出す訓練を避けてはとおれない。

そこで、昔ながらの全世界に普遍的な一般的暗記法を改良することにした。

いたって普通の、みんながやりたがらない暗記法(効果大)

某ミリオネアの例の人のごとくもったいぶるのは嫌いなので、とっとと結論を言う。

  • 見てちょっと覚えたらさっそく目を閉じよ
  • そのまま思い出しつつ小声で読み上げよ
  • 読み上げながら、内容を生々しくイメージせよ
  • スムースに読み上げられるまで何度でも繰り返せ
  • つまらずに読めたら読み上げ速度を限界まで上げよ
  • 1~2秒、遅くとも3秒以内に読み上げられるまで同じ文章を続けよ!
  • ただし発音には注意すること!

これが最初の暗記作業の流れだが、自分にできる限界まで高速で思い返すということを短時間に過剰に行うと、明らかに記憶に残りやすいことがわかると思う。

覚えるさいにいくつか細かなテクニックがあるが、どれもできるだけ考えこまずに、瞬間的にを心がけるべきだと考えている。

細かなテクニック1 ありありとイメージせよ!

テクニックの一つであるイメージすることの効用については、おそらくある程度は記憶術関連でひろく周知されていると思うので、ここではいちいち述べない。

できるだけ鮮明に、リアルに、仰々しく、バカバカしく、エロく、暴力的に、ありえない、とてつもないイメージを思い描くとうまくいく。

細かなテクニック2 文章の後ろから覚えよ!

そしてもう一つ、これは短文にも使えるが特に長文で効果を発揮するものがある。

それが文章を句読点、コンマなどで区切り、後ろから前に向かって記憶していくという方法だ。これはかなりおすすめできる。

普通のやり方では一文が長くなるほど後半が怪しくなってくるわけだから、いきなり後ろから何度も繰り返して記憶してしまうことで、先が思い出せない不安から開放されやすい。

最初のほうを思い出せないことの精神的なつらさよりも、後半のほうのそれのほうが大いに気力・活力を奪われがちだ。

この「ちゃんと記憶できているんだ」という自信は強力で、人はもっと根拠のない自信を持ってもいいとすら思う。

このやり方では当然ながら後ろの復習回数のほうが多くなるので、のちに頭から読み上げたとしても後半に近づくにつれて思い出しやすくなる(=先に進むのが気楽である)。

さらに、後ろから覚えていくと文章の意味がわからないことから、意味を成す文の冒頭まで覚えて、ようやく全体の意味を知り、納得することになる。

これはおそらくワーキングメモリを最大限に使うことになるので、前から読んでいくよりも集中しやすく、記憶にも残りやすいだろうというわけだ。

上の過程で難しいのは、口で短文を読み上げながら、同時に頭のなかで、その文章の意味するところのシーンなどのイメージを思い浮かべることだろう。

最初のうちは難しく感じるかもしれないが、しかし諦めずに確信せよ、人間の脳は意外にダイナミックに成長を遂げるということを。

これらを終えたらこれをAnkiに放り込んで、のちの復習にそなえることになる。

 これはあくまでAnkiを使ったもの

言語学習はAnkiだけでは終わらない。

科学的に少なくとも効果がありそうだというシャドーイングとディクテーションは、たとえば日本国外ではかなり広まっているオーディオブックなどの本物の音声を使って行う。あるいは映画でもドラマでもいい。

文体の感覚を作るため、あるいは文章力向上のために、順調にシャドーイングとディクテーションができるようになったら、その文章(できれば3分から5分ほどある、しかし文章量が多めのもの)を一言一句完璧に記憶するということもやってみるといい。

長文暗記は、僕がおそらく最も大きな効果を感じているものである。

時間がなくてサボリ気味だが、5分ほどのひとかたまりの文章をまるごと憶えていると、これは多くの面で非常に強力な武器となりうる。その5分の塊をどんどん増やしていったらどうなるか、想像すると楽しいぞ。きっと光が見えるだろう

そんなわけで、Ankiは明らかに復習に特化したツールなので、覚える目的ではなく思い出す・復習する目的で使用するのが理にかなっている。

復習以外のものは、さいぜん書いたようにいくつか別の手法を採用する必要もあるだろう。

おわりに 学習時のあまりにも重要な意識の持ち方

さて、最後になるが、効率的な学習法科学的な根拠のある勉強法、あるいは最も効果のある記憶術だとか、直観像記憶や写真記憶の訓練法だとか、効果や効率をとかく考えがちな学習者たちに対して、一つだけ覚えておいてほしいことがある。

それはぶっちゃけやり方はそこまで重要ではないということだ。

身も蓋もないが、そうした知識や技術を得て現実に効果効率を高めることができる人は、おそらくそれ以前にとっくに勉強を始めているに相違ないということなんだ。

真の重大な問題はただひとつしかない

それは、

あなたが現時点でまだ学習を始めていないという事実

それが最大の問題、致命的な問題である。

人間の脳はとにかく作業を開始しない限り、通常やる気など出てこないようになっている

一分だけでいいから今すぐに始めよう。そうすればなんとかなるから。

それが無理なら十秒だけでもいい。きっとうまくいくよ。

始めさえしてしまえばこっちのものだ、時間がどんどん過ぎていくに違いない。

時間を勉強に使うか、くだらない遊びやテレビに使うか、人生を選択しているのは常に自分なのだ。

まだ始めてすらいない者が、全然成長しないなどと嘆くのは笑止千万だろう。

 

今すぐに始めよう。

これは自分自身への鼓舞でもある。

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