学習者必見! 脳を保護・ブーストする物質たち
2021/05/21


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概要
【はじめに】
私は十代前半のころから記憶力の増強と認知機能の維持に人並み外れた強い興味を持っておりました。そしてそれは現在も継続中で、記憶方略、いわゆる記憶術は当然ながら、それにとどまらずさまざまな文献を読み漁り、脳の機能そのものを強化する方法や、アルツハイマー発症のリスクを下げる方法を探し続けてきました。
ここでは私が実際に長年試してきた、脳のクロックアップと健康維持のためのサプリメントや薬をご紹介します。どれもそれなりに効果を感じてきたものを厳選していますので、少しでも脳の機能を強化したいあなたは試してみるといいでしょう。
【必ず守っていただきたいこと】

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脳機能の強化のためには、サプリメント、医薬品、エッセンシャルオイル、脳への直接的な電気刺激など、いろいろな選択肢がありますが、過剰な摂取や問題のある飲み合わせ、あるいは本来意図されていない使い方をすることは絶対におやめください。特にサプリメントや医薬品の過剰摂取と誤った飲み合わせは身体に対する潜在的な危険性がきわめて高いです。醤油や塩、あるいはたんなる水でさえ、摂りすぎればその人を死に至らしめるように、この世のあらゆるものは有用であると同時に有害です。場合によってはあなただけの問題ではなくなり、多くの人に迷惑をかける結果にさえなりますから、「たくさん摂ればそのぶんより効果が強まるだろう」などと考えて、安易な行動を起こさないようにお願いします。
人は不足していることには強い危機感を抱きますが、過剰に多いことにはなぜかさほど危機感を抱きません。実際のところ不足している状態よりも、むしろ過剰に多い状態のほうが致死的なほど危険な場合が多いです。ですので、このサイトだけなど特定のサイトのみの情報で判断するのではなく、ご自分でも調べる癖をつけることが大切です。
【基本方針:神経新生により記憶力をブーストする】

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神経新生とは
脳内で新しい神経細胞が生まれること、特に記憶に関係している領域である海馬での神経細胞の新生のことを指します。一般に脳室下領域の神経前駆細胞が特定の経路から介在神経細胞へ分化するものと、海馬歯状回で顆粒細胞へ分化するものとの二つがよく知られており、ここではこの神経新生を促す何かをもって脳の機能を強化しようという算段です。新しく生まれた神経細胞は私達がよく知っている機能的な成熟神経細胞に分化することや、細胞分裂を阻害する物質により神経新生を阻害すると記憶の形成も障害されることが判明しているので、脳の機能をブーストするという観点からは、できるだけ神経新生を促進する、もしくはその可能性のあるもの・ことを実生活に取り入れ、逆に神経新生を妨害するもの・ことを実生活から追い出すということが基本戦略となります。
神経新生はまだ研究段階
ただし、幼児期を過ぎてからの神経新生については、それそのものの真実性について未だに研究や議論がなされている段階であり、ScienceやNatureに掲載された論文でも、たとえば「大人になってからでも海馬の神経細胞は常に作り出されている」という研究結果があるかと思えば、「海馬ニューロン数は出生後減少する一方となり、大人になると海馬での神経新生はほぼゼロになる」という研究結果があるなど、はっきりとした結論の一致を見ていません。ですので、過度な期待は禁物です。
また、私が根拠としているサプリメントなどの研究については、基本的にそのほとんどが動物実験によるものですから、人間における同等の利益を保証するものではありません。もっともここで記載するのはあくまでも個人的な試用結果ですし、安全性など充分に確認したうえで自己の責任で試すのならば、バチは当たらないでしょう。信じる者は救われるということもあります。
新しく生まれた細胞はそのままだと死ぬ
新生したばかりの幼若な神経細胞が成熟した神経細胞になるまでには時間がかかります。いくつかの研究をつらつら見るかぎり、少なくとも三週間から四週間を要するようです。その間にあなたが特に何もしないでいれば、せっかく生まれてきた神経細胞は無駄となり、ただ死ぬ運命をたどることになります。神経新生を促進したからといって、生まれてきた神経細胞を既存の神経サーキットに組み込むことができなければなんの意味もないですから、神経新生を促進することを決めたら、とにかく毎日常に勉強する、あるいは何かの技術を手に入れたければトレーニングする、運動する、などの習慣を同時に進行させることが重要となります。
【サブ方針:血管や腸内環境を改善し脳をブーストする】

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血管や腸内の環境を健全に保つことは、脳の機能の維持と向上においても非常に重要です。たとえば腸内細菌叢においていわゆる悪玉菌が優勢になると、脳細胞にきわめて有害なアンモニアが増加するといった明確な悪影響がありますし、心血管系についても喫煙やアルコールの摂取などの悪習慣によって血管壁がもろくなっていたり、血液が詰まりやすくなっていたり、場合によっては動脈瘤の破裂などによって致死的な状況に陥ることもあります。結局のところ脳の機能を維持しブーストするということは、体内の多くの領域の状態を健康に保つということでもあるのです。
サプリメントや通常の食事でもそうですが、一般的には健康のために摂取すべきとされているものであっても、実は腸内細菌のバランスを悪化させることが示唆されていたりするなど、必ずしもこれまでの常識が正しいとはかぎりません。
【サプリメント】

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さっそくいきましょう。
まず、最も気軽に試せそうなのがサプリメントです。私は文字通りありとあらゆるサプリメントを試してきましたが、いくら研究論文があるからといってすべてを網羅するわけにはいきません。実際にそれなりの効果を実感している、もしくは効果のある可能性の高いものに限定します。
NMN
マウスの研究で、運動能力、活動レベル、見た目などさまざまな領域にわたって若返りの効果が見られたとする報告があります。NMNはミトコンドリアの活性過程で、細胞分裂のコピーのエラーを防ぐ、免疫力の向上、治癒速度の向上、あるいは脳にも作用し神経伝達の改善に効果のあることが示唆されています。近年の研究では人間の三十代までに相当する若い健康体に投与した場合には目立った変化はなく、四十代以降の中高年に相当する個体に投与した場合にのみ変化が見られたとの報告があります。日本ではNMNサプリメントは非常に高価ですが、海外ではNMNのパウダーが安価に手に入りますので、個人輸入をおすすめします。日本では海外から輸入した商品そのものを三倍以上の値段で売っているぼったくり商品が多いので、ご注意ください(特にAmazon)。主に舌下吸収により摂取します。
オメガ3脂肪酸、DHA、EPA
はっきりとした記憶力増進効果は確認できませんが、DHAにはアルツハイマー病患者によく見られるβアミロイドの産生を阻害することによって、主として神経保護効果を発揮することが示唆されています。また、外傷性の損傷を負った脳において、DHAの補給による神経新生の増加が観察されています。なお、アルツハイマーの原因はβアミロイドだとする仮説については議論があり、近年ではβアミロイドは原因ではなくあくまで結果にすぎず、むしろ脳を保護しているのではないかという説もあります(後述)。ちなみにDHAは精液の量が増えると科学的に現在唯一結論付けられた物質でもあります。
オメガ3脂肪酸、DHA、EPAは多量に摂取すると有害であることが示唆されているので、適切な量を摂取する必要があります。通常はオメガ3脂肪酸としては全体で1000mgほど、DHAとしては300mg、EPAとしては700mgほどの摂取が安全です。
ウリジン
ウリジンは細胞あたりの神経突起の数を有意かつ用量依存的に増加させます。ホスファチジルコリンの合成を促すことによって神経突起の伸長を促進する可能性が示唆されています。また、DHAと併用すると神経細胞膜合成を促進してシナプスの数を増加させることが示唆されています。
メラトニン
マウスの研究によって海馬における神経新生を促進することが示唆されています。また、メラトニンの代謝産物であるAMKは強力な長期記憶の誘導作用が観察されています。AMKは短期記憶から長期記憶への移行を促す物質である可能性があります。加齢による記憶力の低下も改善することが示唆されています。
イチョウ葉エキス
イチョウ葉エキスはラットの脳の血流量を増加させ、虚血によって損なわれた記憶を改善し、脳機能の保護作用を有することが示唆されています。低用量アスピリンと組み合わせることで相乗効果が得られる可能性があります。
MTCオイルと絶食、断眠(アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸)
MCTオイルは中鎖脂肪酸を多く含む油です。MCTオイルは体内でケトン体を効率的に生成することに役立ちます。ケトン体が多くなると認知機能テストが有意に向上したという報告があります。β-ヒドロキシ酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用によって脳由来神経栄養因子BDNFを増加させ、認知機能や学習能力を高めることが示唆されています。また、GABA受容体の弱いアゴニストであり、血中濃度を高めると幸福感を向上させる可能性があります。ケトン体は絶食や運動による脂肪の分解や、断眠によっても顕著な増大が報告されていますが、断眠はデメリットのほうが多く報告されています。
アセチル-L-カルニチン
マウスの実験において、アセチル-L-カルニチンを投与したマウスの学習能力が向上したとの報告があります。アセチル-L-カルニチンはケトン体の産生を高めるとともに、ALCの合成を促進して脳細胞を保護する可能性があります。
注意してほしいのが、ふつうのL-カルニチンです。赤身の肉などに含まれている成分で、これもサプリメントとして売られていますが、L-カルニチンを摂取すると腸内細菌叢に変化が起こり、カルニチンからトリメチルアミン(TMA)を生成する細菌群が増殖するという研究結果があります。TMAは体内でトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)に変換されますが、TMAOはアテローム性動脈硬化を促進することが以前からよく知られています。
ナイアシン
ビタミンの中でも特筆すべきなのがビタミンB3で、一般にはナイアシンと呼ばれます。ナイアシンは脳由来神経栄養因子BDNFおよび受容体TrkBの発現を増加するという報告があります。私はSolarayのNiacin 500mgを摂取しており、これは日常に摂取される量よりも遥かに多い量なので、いわゆるナイアシンフラッシュと呼ばれる特有の肌のかゆみが出てきますが、はっきり作用していることを自覚したいので、ナイアシンフラッシュフリーのものは摂取していません。
カフェイン
サプリメントの項に記載するのは少し違う気もしますが、カフェインのほどほどの摂取は記憶に有効です。カフェインはあまりにも有名ですので、細かく書く必要もないでしょうが、いくつかの研究では記憶力を増強する効果があったとしています。特に学習後に摂取することが有効とのことです。メタアナリシスにより覚醒効果と注意力の向上が見られました。また、カフェインはcAMPを増やすことでβ-ヒドロキシ酪酸の遺伝子の発現を活性化します。
フペルジンA
アセチルコリンエステラーゼ阻害作用を有します。記憶にはアセチルコリンが重要であり、フペルジンAはアセチルコリンの分解を抑制することでアセチルコリン濃度を高め、その効果を発揮します。
マルチビタミン、ミネラル(サブ)
通常の食事をしている方は特に必要ないかもしれませんが、私は念のためいつもマルチビタミンを摂取しています。これまでの経験上、マルチビタミンは量が多ければよいというものではありません。特にビタミンやミネラルだからといってあまりにも多く摂取すると、むしろ身体に明確な悪影響を与えますので、食品ベースで構成された、過剰な量が含まれていないオーガニックなマルチビタミンをおすすめします(たとえばGarden of LifeのVitamin Codeなど)。マルチビタミンとは別に個別に摂取しているのは、ビタミンB群とビタミンC、ビタミンE群、そしてビタミンDだけです。
ナットウキナーゼ(サブ)
血液をさらさらにする作用があり、動脈硬化や血栓予防のために使っています。
エラスチン(サブ)
エラスチンの比較的長期にわたる摂取により皮膚弾力性が有意に上昇しました。サプリメントの経口摂取であっても体内における産生が促されることが示唆されています。血管壁の柔軟性を保ち動脈硬化を防ぐことに寄与する可能性があります。
キシロオリゴ糖(サブ)
腸内環境を改善するためのオリゴ糖の一種です。研究によれば、1グラムから2グラムの低用量であっても、特に不快な望ましくない消化作用なしにビフィズス菌を大幅に増殖させました。Life ExtensionのPrebiotic Chewableがおすすめです。甘いお菓子のようです。
LKM512とアルギニン(サブ)
LKM512はビフィズス菌の一種ですが、このビフィズス菌が特異なのは腸内にすみやかに住み着き、急速に増殖し、体内においてポリアミンの一種であるスペルミンとスペルミジンの前駆体であるプトレッシン濃度を高め、スペルミンとスペルミジンを増加させる働きを持つ点にあります。アルギニンと併用することで有意な相乗効果が得られることが確認されています。
ポリアミンは炎症性サイトカインの過剰分泌を抑制することで、抗炎症効果、抗アレルギー効果を発揮します。いくつかの論文で老年病の主要因である炎症マーカーや老化マーカーの抑制効果が認められています。また、マウスの実験において、複数の研究で寿命が伸びたことから、腸内ポリアミン濃度が上昇すると寿命の伸長に効果がある可能性が高く、脳機能に関しても、モリス水迷路試験による測定において、投与六箇月後の投与群で有意に成績が高かったことから、ポリアミンは加齢による記憶力減退を抑制することが示唆されています。スペルミジンとスペルミンは脳内NMDA受容体に結合して記憶力に関与していることが確認されており、逆にポリアミンの合成を阻害すると学習記憶の低下が起こることも報告されています。ショウジョウバエの研究で、スペルミジンの経口投与により加齢に伴う記憶力低下が抑制されたことが確認されています。また、スペルミジンの作用により血管内皮機能が改善したことが示唆されています。
【医薬品・ホルモン関係】

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警告! 医薬品や男性ホルモン、女性ホルモンなどの性ステロイドは、扱い方を間違えると重大な身体的問題を招くおそれがあります。ご利用に際しては必ず使用上の注意をよく読み(特に飲み合わせや摂取量)、ご自身の責任で細心の注意を払って取り扱ってください。
アンドロゲン(男性ホルモン)
男性ホルモンであり、テストステロン、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロンのうち特にテストステロンがよく知られています。海馬では睾丸の有無にかかわらず、男性も女性もどちらも男性ホルモンと女性ホルモンが作られており、通常海馬内での濃度は血中濃度よりも高いです。海馬内のテストステロンが女性ホルモンであるエストラジオールに変換されたのち、神経シナプスのモジュレーション作用により記憶能力を改善するという研究結果があります。また、ジヒドロテストステロンはDHTとして知られ、ハゲを誘発するので忌み嫌われておりますが、パラクリンを通じて海馬における神経新生を促進するという研究結果があります。
性ホルモンは扱いに特に注意が必要です。男性の場合は女性化乳房や睾丸の萎縮、女性の場合も血管が詰まりやすくなるといった副作用が生じるおそれがあります。特に若い方は充分にリスクを理解していないかぎり安易に使用してはなりません。
エストロゲン(女性ホルモン)
エストロン、エストラジオール、エストリオールからなり、特にエストラジオールがよく知られています。エストロゲンは成長因子プログラニュリン(progranulin: PGRN)を介して成熟ラットの神経新生を促進します。ある研究では血中エストラジオールの割合の高い男性のほうが細胞が若々しく、長生きする傾向にありました。
性ホルモンは扱いに特に注意が必要です。男性の場合は女性化乳房や睾丸の萎縮、女性の場合も血管が詰まりやすくなるといった副作用が生じるおそれがあります。特に若い方は充分にリスクを理解していないかぎり安易に使用してはなりません。
アシクロビル
アシクロビルは単純ヘルペスウイルスに対抗するための薬です。アミロイドβはアルツハイマー病の原因ではなく、ある種の細菌あるいはウイルスとの戦いによって生じた結果にすぎないのではないかという説があります(https://wired.jp/2016/06/03/brain-infections-may-spark-alzheimers/)。脳に侵入したヘルペスウイルスや真菌が原因なのではないか、つまりアルツハイマーは病原性の病気なのではないかという説で、 Fungal infection in patients with Alzheimer’s diseaseという論文を読むとそれなりに説得力があるように見えます。私はヘルペスには感染していないと思われますが、こうした論文を根拠に、ヘルペスウイルスの予防的にごく少量を定期的に摂取しています(おすすめはしません!)。
リファンピシン
結核の治療に使われる抗生物質ですが、アミロイドβ、タウ、αシヌクレインのオリゴマー形成を抑える作用があることが発見されました。アルツハイマーモデルマウスへの経口投与でシナプスが回復し、記憶障害が改善したという報告があります。これも予防目的での間を置いての定期的なごく少量の摂取ですが(おすすめはしません!)、抗生物質は安易に飲み続けると耐性菌を生んでしまいますので、絶対に慢性的に飲んではいけません。
トラゾドン
セロトニン遮断再取り込み阻害薬(SARI)に分類される抗うつ薬ですが、脳細胞を機能不全や死滅から保護し、認知症、記憶障害を予防することを示唆する研究結果があります。以前ごくわずかに摂取していましたが、眠気が出ることが多いため、今はほぼ飲んでいません。また抗うつ薬は慢性的に摂取したあとに急にやめるとさまざまな不快な症状があらわれる、いわゆる離脱症状に苦しめられることになりますので、安易に摂取してはいけません。
ブプロピオン
ノルエピネフリン・ドーパミン再取り込み阻害薬(NDRI)に分類される抗うつ薬の一種です。ドーパミンの量を増やすことで気分を改善します。ドーパミンは記憶の形成と何かに集中する際に重要な神経伝達物質です。ブプロピオンは一般に依存性がきわめて低く、離脱症状も経験しませんでしたので、とても安全な薬だと思いますが、抗うつ薬であることに違いはありませんし、飲み合わせにも注意が必要です。
ガランタミン、ドネペジル
どちらもアセチルコリンエステラーゼ阻害薬です。アルツハイマーの治療に用いられる薬ですが、プラセボよりもトレーニングタスク、言語記憶、エピソード記憶の保持に効果があることが示唆されています。また、睡眠が充分に足りている患者にはさほど効果はないものの、二十四時間の睡眠不足の患者において記憶力と注意力の増加が得られたという報告があります。
アスピリン(サブ)
心血管イベントのリスクを下げるために81mgの低用量アスピリンを摂取しています。また、イチョウ葉エキスと組み合わせると記憶力が向上したという報告がありますが、高齢者においてイチョウ葉エキスとアスピリンを併用した人が、複視や眼球内での出血などの副作用に苦しんだという報告もありますので、再三に渡り書いていますが、あくまで自己の責任でお願いします。
ベザフィブラート(サブ)
高脂血症の治療のために使われ、中性脂肪を減らします。通常使用量より少なくとも半量以下で摂取しています(おすすめはしません!)。
ピオグリタゾン(サブ)
糖尿病治療に用いられる、インスリン抵抗性を改善する薬です。インスリン抵抗性とは、インスリンが過剰に分泌されるなどすることで各臓器におけるインスリンに対する感受性が低下した状態です。本来発揮されるべきインスリンの働きが得られないので、血糖値が上昇し、上昇した血糖値を下げるためにさらにインスリンが必要になるという状態になり、これが続くとインスリンを分泌する膵臓の機能が低下して糖尿病になります。インスリン低下によりCREBが活性化され長期記憶の獲得に寄与するという、有名なショウジョウバエの実験があります。私は肥満でも糖尿病でもありませんが、あまりにも糖分を多く摂取しすぎていると感じたときに、わずかな量を摂取することがあります。
ベラパミル(サブ)
不整脈や高血圧の治療に用いられる薬ですが、Txnipを阻害することを期待してときどきほんのわずかに摂取します。ベラパミルでカルシウムチャネル活性を阻害するとTxnipのレベルが低下するという研究結果があります。Txnipは人体において多彩な機能を有する重要なチオレドキシン結合タンパク質ですが、ある研究は過剰なTxnipは老化のプロセスを加速させることを示唆しています。Txnipの量が少なかったハエがより長生きした一方で、多くのTxnipを作っていたハエは生きていた期間が平均してはるかに短かったという報告があります。Txnipの発現は心筋梗塞や高血圧をもたらし、逆に低減するとアポトーシスと線維症の減少をもたらすという報告があります。Txnipを抑制することで心筋細胞を保護できる可能性があります。
アルコール
少し趣向が違いますが、ここに記載します。アルコールはこれまで少量であれば健康に寄与すると考えられてきましたが、近年の研究では少量であってもただ体に悪いだけだったという結果が得られていますので、あまりおすすめはしません。しかしながら、お酒を飲むと「飲む直前の記憶」が強化されるという研究報告があります。アルコールが脳に作用し始めるとその後の新しい刺激に脳が反応しにくくなるため、結果的に飲酒直前に学習した内容を集中的に長期記憶へ置き換える余裕が生まれているのではないかなど、その理由についてはいくつか推論されていますが、はっきりしたことはわかっていないようです。
【未承認薬物、違法薬物】

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警告! ここで記載する物質についてはあくまで知識欲を満たすにとどめてください。いかなる理由があってもこれらの物質を摂取しないことを強くすすめます。
DMT
最強の幻覚剤として名高いジメチルトリプタミンです。近年アヤワスカが有名になりましたね。ほかの幻覚剤と同様、既存の神経ネットワークの接続を再構築する可能性があります。
シロシビン、シロシン
いわゆる幻覚性のきのこに含まれる幻覚剤です。低用量のシロシビンはマウスにおける海馬のニューロンを増加させたという報告があります。また、シロシビンの投与により脳内ネットワークが新しく秩序だった形で再構築される可能性が示唆されています。近年では不安やうつ病の治療に利用されるようになった国もあります。
LSD
有名な幻覚剤です。一時期、シリコンバレーのエンジニアたちは低用量のLSDの摂取により仕事のパフォーマンス、創造性、集中力を高めることを期待していましたが(マイクロドージング)、その後音沙汰がないので思ったような効果はなかったものと思われます。唯一の二重盲検ランダム化試験によれば、マイクロドージングによるパフォーマンスの向上は見られませんでした。
メタンフェタミン
いわゆる覚醒剤です。日本では一度使ったら終わりなどとおそろしい物質の典型のように扱われていますが、海外の文献を見るとどうも様子が違います。ごく低用量の慢性的でない摂取では、特に脳の受容体の望ましくないレギュレーションも起こらず、記憶力の向上がみられたという研究結果があります。
ヌーペプト
いわゆるスマートドラッグの一種で、抗酸化作用と抗炎症作用を持ち、過剰なカルシウムとグルタミン酸の神経毒性から脳を保護し、また脳由来神経栄養因子(BDNF)を増加させることによって神経新生を促進する可能性があります。違法ではなく、特に規制されているわけではありません。私も使っていましたが、期待するほどの効果は見られませんでしたので、今は摂取していません。
PRL-8-53
いわゆるスマートドラッグの一種です。二重盲検条件下での試験において、PRL-8-53が認知機能のわずかな改善をもたらしたという報告があります。もともとテストで高得点を取るような人にはそれほど効果はなかったものの、短期記憶が不十分な人や三十歳以上の人において、単語テストのスコアが実に倍以上に増加したという研究結果があります。個人的には、睡眠不足下においてスマートドラッグの中では最も効果が感じられました。覚醒効果などはありません。未規制。
【アロマオイル、精油】

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注意! アロマオイルは直接肌につけたり飲用してはいけません。高濃度のアロマオイルを肌に塗ったり飲んだりすると、望ましい効果が得られないどころか、なんらかの致命的な副作用が発現するおそれがあります。
ヒノキ(α-ピネン)
脳由来神経栄養因子(BDNF)を増加させ、神経新生を促進するという報告があります。α-ピネンはアロマオイルにおいてはヒノキ、スギ、サイプレス、フランキンセンス、ローズマリー・カンファー、ローズマリー・シネオールなど多彩なものに含まれています。特にヒノキがおすすめですが、これらを併用するとよいでしょう。
ローズマリー(カルノシン酸、カンファー、1,8シネオール)
カルノシン酸はローズマリーに含まれるテルペノイドで、核内転写因子Nrf2の活性化により強力な神経突起の伸長促進効果があり、記憶力を強化するという研究結果があります。個人的にはローズマリー茶がおすすめです。ちなみに1,8シネオールには抗菌作用、抗ウイルス作用、抗炎症作用、免疫調整作用があり、近年の研究ではメインプロテアーゼを阻害することで新型コロナウイルスの増殖を抑制する作用があることが示唆されています。
ティーツリー(テルピネオール)
テルピネオールを吸引することによって背外側前頭前野と前頭極の領域において血流量が増加したことから、作動記憶を高める可能性が示唆されています。
ペパーミント(メントール、1,8シネオール)
ペパーミントの香りを吸引すると、無臭時よりも集中力が高まる可能性と、単調作業により低下した注意力を回復させる可能性が示唆されています。また実験動物の行動試験から、ペパーミントには中枢興奮作用があると結論する研究結果があります。
【生活習慣】

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運動
有酸素運動や筋力トレーニングは海馬の神経新生を促進し、また海馬の体積を増加させるという研究結果があります。運動をすると脳由来神経栄養因子BDNFが増大し、ニューロンの回路を構築し、維持し、あるいはニューロンを新生させ、シナプス結合を増やすことで記憶の形成を高める可能性があります。MCTオイルの項で書きましたが、運動によってもβ-ヒドロキシ酪酸が増加し、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害によりBDNF遺伝子発現が誘導されることで、認知機能や学習能力を高めるとの研究結果が報告されています。また、運動はインスリン抵抗性を改善することによって記憶力を増強します。運動は脳だけでなく身体のあらゆる領域においてメリットがありますので、ぜひ取り入れましょう。
スキルの獲得
何かを勉強したり習得したりすることを指します。海馬の神経細胞の生存率を高めるために、これは毎日常に行う必要があります。また、複雑なスキルの獲得をするために努力していると、加齢に伴う海馬の容積の減少率が、そうでない場合に比べて少なくなるという報告があります。
睡眠
慢性的な睡眠不足はストレスレベルを強力に押し上げることによって神経新生を阻害します。いまさら言うことではないと思うので、毎日八時間程度の充分な睡眠をとるように心がけましょう(ただし人によって適切な睡眠時間は異なります)。勉学においても睡眠不足は禁物です。
瞑想
瞑想の研究は近年急速に進んでおり、実にざまざまな良い効果をもたらすことが明らかになっています。瞑想はただ座って何もしない状態なのではなく、精神に対する積極的なトレーニングです。二十年以上瞑想を続けてきた人は、そうでない人にくらべて脳の灰白質の量が有意に多かったという研究結果があります。脳全体、広範に渡る効果があるようです。うつ病や不安神経症に対しても、抗うつ薬に匹敵する効果が確認されています。そこまで長期に渡る実践でなくとも、ほんの数日間のトレーニングで集中力や注意力が上昇したという報告がありますので、気軽に始めてみるのがおすすめです。また、瞑想を続けるうちに睡眠時間が減少したという(実践者による体験談ですが)報告が多数あります。
食習慣
膵臓の機能を低下させるような食べすぎ、あるいは炭水化物(糖分)の摂りすぎを避け、各食事ごとに血糖値が急変動しないように、できれば「野菜→タンパク質→炭水化物」の順番で食事を摂ることをおすすめします。また、食事の量は少ないほうが脳のためにはよく、それは次の断食の項に記載します。
断食、絶食
定期的な断食、絶食は脳のみならず全身にさまざまな良い影響を及ぼす可能性が示唆されています。絶食により体脂肪が燃焼するとアセト酢酸とβ-ヒドロキシ酪酸が生成され、抗炎症作用や細胞保護作用を発揮します。また、絶食するとオートファジーの働きが強まることで、細胞内異常タンパクの分解と除去を促進します。ほかにもストレス抵抗性が増大して寿命を伸ばすことが報告されています。どのくらいの頻度で、どの程度の時間にわたって断食するかはさまざまな手法や議論がありますが、過酷な断食でなくとも充分によい効果が得られる可能性が高いので、自分の生活スタイルに合った方法を取り入れればよいかと思います。
性行為
セックスは成人の神経新生を促進し、樹状突起棘と樹状突起構造の成長を刺激し続けたという研究結果があります。慢性的な性的経験も不安行動を減少させ、ストレスを軽減する効果が示唆されています。
【経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)】

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変わり種としては、頭蓋骨を通して微弱な電気を流して脳を直接刺激する方法があります。tDCSによってアドレナリンの放出が促進され、アストロサイトのカルシウム上昇を介してシナプス伝達の増強が起こりやすくなるという報告があります。また、脳梗塞患者のリハビリに利用して成功を収めたという報告があります。統合失調症患者においてワーキングメモリの改善に有意な効果があったとするメタ分析に基づく報告がありますが、健常者においてはワーキングメモリの容量を向上させる効果は見られなかったという報告もあり、一貫した結論を見ていません。刺激する脳の領域を適切に選択しなければ、あるいはほかの方法との組み合わせを前提として使用しなければ効果は薄いか、もしくはむしろ副作用が出るおそれがあるとの警鐘もなされています。
【他言無用! 眠気覚ましと集中力UPの裏技】

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これは安易によく読みもせずに試す人がなんらかの事故を起こしてしまう可能性を考えると、正直なところあまり教えたくないのですが、市販の鼻炎薬(エフェドリンとカフェイン含有のもので、コデインの含まれていないもの)と、パーキンソン病の治療に使われるとあるMAO-B阻害薬を適切に組み合わせることによって、サプリメントとしても医薬品としてももはや手に入らないエフェドリンの作用をうまく増強させることによって、覚醒作用により集中力を向上させることができます。ちなみに今でも海外のダイエットサプリにおいてはエフェドリンはエフェドラ抽出物として含まれているものもありますが、含有量については厳しく規制されているためすべて全く無意味な低用量のものしか存在しません。
「とある」と濁したのには理由があり、MAO(モノアミン酸化酵素)というのは人体においてきわめて重要なもので、これを阻害する医薬品は扱いが難しいのです。過剰摂取はもちろん、ほかの薬や食物との飲み合わせ・食べ合わせによっても、場合によっては文字通り死んでしまうおそれがありますので、これ以上のことはご自分でなんとかしてください。
なお、エフェドリンは麻黄に含まれており、麻黄は漢方薬として誰でも簡単に購入することができます。ただし、実際に試してみればわかりますが、麻黄のお茶はにおいがきつく、とてもまずいです。しかし現状、合法的に覚醒作用を有するエフェドリンを入手する選択肢としては、麻黄茶が最も手軽で安全性が高いことも確かです。
【おわりに】

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これまで書いてきたものはどれも私が実際に試してきたもののごく一部であり、2021年5月現在も継続して実験するに値するわずかな生き残りたちです。アマンタジン、バルプロ酸、メトフォルミンなど、ほかにもさまざまなものを試してきましたが、メリットとデメリットを考慮して、現在はこれらのみが選択肢として残されました。
何度も書いていますが、これらを試すにあたっては充分にご自分でも調査し、知識をつけて納得したうえで、何よりもご自身の安全を最優先にすることを心がけてください。
そして根本的なことですが、勉学は何よりも継続することが重要です。手段が目的になってしまわないように!